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窯が教えてくれるはず



荒れ果てた我が薪窯。十数年火を入れていない。
故障の身ゆえ放置せざるを得ないけど、この窯が学校だったな。

ここ蓑毛に移ってから最初に築いたのが画像の窯。美濃の大窯の形式をした単室窯だ。煙道部も含めて全長7メートルくらいあるのかな。たしか400個ほど入れて、焼き上げるのに四日半、500束くらいの薪を投げ込んだと記憶している。10年間、20回くらい焚いたはずだけど、正直なところ作品と呼べるものは残っていない。作品を焼き上げたかったのは当然だけれど、「窯焚き」を知りたいという欲求も強かった。「えぇ。窯焚きをですか?」との疑問の声が聞こえてきそうだけれど、薪窯というバケモノは薪を投げ入れれば焼けるなんて生易しいものではない。たしかに、ある種の呼吸を掴むと温度は上がるには上がる。けれど焼物というものは、温度が上がりさえすればいいわけではないんだなぁ。

それでもまずは温度上昇は気がかりだ。知人に窯焚きを「見せろ」と頼まれると、なんとかお茶を濁すのが常だったけれど、時として断れないこともある。そうして世間話に相づちを打ちながら窯焚きをしていると、窯が拗ねてくる。昇温しなくなる。薪入れの僅かなタイミングの遅さが窯焚きをつまづかせるわけだ。ここで窯焚きを失敗すれば、何ヶ月かの作陶時間と数十万円の薪代が、文字通り煙と化す。それより大切なデータ取りがあやしくなる。内部でどうにか人が立てるほど大きなこの窯ですら、神経質な薪入れを要求してくる。不器用な以織には、窯焚きを社交の場にすることが、どうしても出来なかった。

思い起こせば、火の色で温度がわかるはずとうそぶいて、高温計をはずして、結局降参した記憶もある。答えはすでに出ている。我々現代人には(よほどの天才を除いて)火の色で温度を測れる感性は欠落している。古作陶工だって幾世代もの経験に積み重ねられた伝承によって、焼き上がりを計る技能を磨いたはずだ。そうした伝統が途切れてしまった今日、出来うるかぎりのセンサーを動員するのはけして恥ずかしいことではない。知識を駆馳して古作陶工の知恵に近づくことができれば幸せではないか。技術を我が技能として身につけるためには、まずは自己の未熟に気付くことだ。

焼物をかじった人なら「酸化」だの「還元」だの耳にするに違いない。酸化も還元も窯の中の雰囲気を表す言葉で、燃えさかる窯の中で酸素が十分足りているか、または一酸化炭素が充満しているかを表す言葉だ。焼物はこの言葉通り炎を調整して焼き上げる。とは言え、薪窯にノスタルジックな思いばかりを先行させる風潮は(それは取りも直さず、薪窯とその窯焚きが時代遺物のせいなのだろうけど)、薪窯で焼きさえすれば名品が得れるかのような錯覚を生んでいるようだ。筆者だって、その思いはわかる。最高温度に達した薪窯の中は極色と言って真っ白な炎が揺らぐ、むしろ冷たそうで、手を入れたい衝動に駆られる。炎への憧憬は古代からの遺伝だろうから、ノスタルジックな思いを捨てられるはずもないけれど、陶工は自然の能動的観察者だということを忘れないでいたい。「薪窯で焼いたのですよ」を言い訳にしては古作陶工に笑われる。彼らはいかにして炎を調整しあの作品群を生んだのか。現代の薪窯陶工はその幸運をもってして、彼らに最も近いところに位置するわけだから、自然の当たり前の神秘を真摯に手にする努力を惜しまないでもらいたい。天命を待つのだから、人智は尽くさねば。

いやぁ、実は薪窯でなくっても同じです。現代の便利な窯だって、焼き分けねば表現はできません。「窯で絵を描く」と昔の人が言っていると読みました。陶芸には幅広い表現があるから、筆で絵を描こうが爆発させようが歓迎だけれど、焼き上がりの肌にこだわるのだったら、窯で絵を描くしかありません。陶磁器の色も形も焼いてこその質感によって支えられていると、この老陶工は思うのです。

追記:過去の既成概念を打ち破る窯焚きも存在すべきだから、上記の以織論も陶工の数だけある意見のひとつです。実は若い頃、筆者もめちゃめちゃやってきたのです。結果行き詰まって、古作陶工の聞こえぬ声を聞く努力をしだしたら、素材との関わり方に幅ができました。陶芸の枠を超え、生身の実感とでも言うべきものを、より豊かに得られると思えるようになりました。そうか、余分なことを言う必要はないのかも。窯が教えてくれるはずだから。
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井戸茶碗陶術遣い

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